高知の静けさの中で、ふと手元の画面を見つめた。 呼び出し音は届かず、メッセージの気配も途絶えている。 信頼していた先輩から、どうやら携帯を拒否されているらしい。
世界が敵に回ったとしても、 彼女だけは僕の味方でいてくれる—— そう信じて背中を預けてきた人だった。
拒絶の気配に触れた瞬間、胸の奥がきしんだ。 けれど、怒りも疑念も湧いてこない。 決定的な衝突があったわけでもないからだ。
沈黙の向こう側で、ふと腑に落ちるものがあった。
「もう、一人立ちしなさい」
そう言われたのだと思った。
彼女という絶対的な存在がいてくれる安心感に、 僕はどこかで甘え続けていたのかもしれない。 「彼女がいるから大丈夫」と、 自分の足で立つ覚悟の一部を、無意識に預けてしまっていた。
声にならない問いかけが胸の奥で響く。
『お前はもう、一人でやっていけるだろう?』
優しい言葉を交わせば、僕はまた寄りかかってしまう。 だからこそ、逃げ場をなくすための沈黙を選んだのだろう。
何かがあったからではなく、 僕のこれからを思ってくれているからこその選択。
遮断された通信の向こうにあるのは、悪意ではなく、 過酷なほどの信頼だ。
寂しさをゼロにすることはできない。 けれど、この静寂を抱えたまま歩き出さなければならない。 彼女が信じてくれた「僕」を、 今度は僕自身が証明するために。

黒曜の夜想曲|黒曜の図書館で紐解く神話と神秘学のダークファンタジー
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